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取材・文/高木晋一郎 撮影/小林TAXI スタイリング/小林里絵(o.g.c) ヘアメイク/木村美貴子

ライムスターの再始動作となる「マニフェスト」には、「エモーショナル」という横文字で表すよりも、「胸を打つ何かを作りたい」という、表現者としての根本をそのまま表したような、単純で無骨で、純粋な感情が溢れている。そしてそれを表現するために、彼らのとった方法は「ヒップホップそれそのままの魅力の追究」。それによって立ち現れ、大きな芯となって作品を貫く「強さ」は、どうしようもなくリスナーの胸を打ってやまない。RHYMESTER is BACK!!


――今回のアルバムの像は初期段階でイメージができていましたか?
Mummy-D(以下D)「下半身が馬、みたいな」
DJ JIN(以下J)「次は馬だぜ、俺たち!」

――見た目以外でお願いします。
D「トラックを外部プロデューサーから集めて、ズルい感じでやっちゃおう、ってのは最初からのイメージ。かつ、一曲一曲のクオリティを恐れず照れずにむちゃくちゃ上げちゃおうって思ってて、それは実現できたと思う。でも、リリック面ではもっとコンシャスなものやバラエティに富んだものになる予定だったんだよね」
宇多丸(以下U)「それよりもヒップホップのエレメンツ、原理の話をもう一回噛み砕いて、外にも伝わる形がリリックの中心になって。だからまずは根本の話をしたい、って部分が強かったんだろうね」

―― まず自分たちの行動原理というか。
U「そう。だから“表明する”という意味で『マニフェスト』なんだよ」
D「やっぱり20周年って節目と、約2年半の休止期間があるから、どうしてもそういったライムスターの本質みたいな部分が色濃くなるのは当然っちゃ当然。だから現代版『俺に言わせりゃ』(編註:彼らのデビュー・アルバム。93年発表)ってことで、『マニフェスト』でいいんじゃないかって」
U「そもそも『ライムスターは何がしたかったんだっけ?』ってことを改めて見つめ直したアルバムだね。それが今回のモチベーションだし、言ってしまえば“2枚目のファースト・アルバム”だよ、これは」

――今回はエモーションをそのまま打ち出す部分も強いですね。
U 「“ ONCE AGAIN ”に続いて“ラストヴァース”をシングルとして切ったことは、自分たちとしてもそこを重要な要素にしたかったってことの証明で、裏話をするなら、シングルとして“ラストヴァース”と競ってたのは“ HEEL ”だったんだよね」

――“HEEL”は諧謔味も強いから、かなり対照的な印象がありますね。
U「いままでのライムスターの方法論としては、“HEEL”でカウンターを打ち、“ONCE AGAIN”の感動を台なしにする、ってことをやったわけだけど(笑)」
D「今回はカウンターを打たず、“ラストヴァース”で一本テーマとして筋を通したっていうかね」

――エモーションという部分だと、世の中に溢れるエモーショナルとされるモノって、「あなたはそれで良い」みたいな思考停止させるモノだったりしますよね。でも、このアルバムに通底するのは、「立ち上がれ」というか、そういう活を入れるタイプだなって。
D「うーん……まあ、そういうさじ加減だったってことかな」
U「……それは回答としてスゴく残念な答えだな!(笑) まあ、一般論としてもだけど、いい話やハートウォームとされるモノが、甘やかし合うことだって勘違いしてない? ってのがあるんだよね。それはすごく嫌なんだ。このアルバムで俺らが言ってることは、居酒屋のトイレに貼ってある“親父の小言”なんだよ。あれは意外と良いこと言ってるからね。例えば“常に工夫しろ”とか“ちょうど良くあれ”みたいな」
D「“時には悪役になれ”とかね」 U「昔から言われ続けられているものには、それ相応の理由と説得力があるわけだからさ」
D「特に“K.U.F.U.”なんて『練習しよう! 努力しよう!』なんて道徳の教科書みたいなことを、熱いファンク・ビートに載せて歌ってるヘンな曲だしね(笑)。でも、そういうリリックを書くのは、どっかで自分は『多数派じゃない』とか『はみ出した側の人間だ』って思ってるし、そういう弱者側が何かを成し遂げるための言葉、ってことはこれからも変わらず出てくるだろうね。それに、エモーショナルとかエモーションって、“甘え”じゃなくて“強さ”みたいなモノがないとヒップホップ・ビートの上では機能しないと思うし、そういうのに俺らは感動してきたわけだから、どうしても強い表現になってしまうよね」

――そういう自尊自立みたいな意識って、いままでもライムスターが脈々とやってきたことだけど、それを今回は諧謔やオブラードに包んだりせずに、わかりやすい形で提示してますよね。
D「まさしくその通り。すべてをライムスター的バランスでまとめるんじゃなくて、一曲一曲のテーマをキッチリ決めて、曲ごとの色をビビッドにすることが今回は重要だったんだ。そして、それが曲としての“強さ”につながるんじゃないかなって」

――かつ、リリックの韻の固さであったりっていう、オーソドックスなヒップホップ的な手法を、今作はものすごく突き詰めてますよね。
D「この制作期間中はヒップホップを全然聴かなかったんだ。だから気分的には無人島でアルバムを作ってるような感じ。でもそれは、“いまの時代”とか“トレンド”に合わせたり、意識した表現方法をするべきじゃないって今回は思ったからなんだよね。そんなことよりも、俺らのやってる古臭えラップを研ぎ澄まし、そのスタイルのまま質を高めて“その先”を目指そうって。本作で言えば、いまっぽいセンスはトラック・メイカーが加えてくれると思ってたから、俺らは恐れずに古臭いセンスに磨きをかけるっていうね。いまはヴァースの時代じゃなくてフックの時代になってると思うんだけど、俺らの売り物はヴァースだし、24(小節)も32もラップしてしまうから、その先にしか俺らのゴールはない、と思ってるんだよね」
U「言いたいことが明確だから、ってことに尽きる気がする。それをわからせるためにリリックはしっかり整理して書く、ってことを命題にしたから、当然ヌケは良くなるよね。今回Dがディレクションしたことの1つに『整理して』ってキーワードがあったんだけど、それによってこのアルバムで言ってることは一貫していてまったくぶれてないと思う。だから理念や論理的整合性はものすごく高いし、かつわかりやすいと思うんだよね」

――でも宇多丸さんのリリック、相当ヒドいとこもありますよね。「いっそタオル代わりに妹のパンティ回す級」ってのはここ最近聴いた中でもっとも馬鹿なリリックでした。
U「発明じゃん! 最初にタオル回した人は発明だけど、フォロアーが増えすぎてもうレゲエ的なことでもなくなっちゃってるわけじゃん。それに対する問題提起ですよ」

――なんなら一番問題提起になるかと。
U「そう。回すアクション自体は陳腐化してるけど、それが仮に妹のパンティだったら、壁を破る新しい表現ですよ!」 D「しかも軽いからよく回るだろうね」

――ハハハ。外部プロデューサーの起用についても教えてください。
D「まず、誰に頼むか? ってのを3人で決めて、そこでトラックを発注する。その中から使いたいものにツバをつけて、サブジェクトが浮かんだ順に制作に入る、って感じかな。基本にあるのはこの3人がスゴいと思ったり、好きなトラック・メイカーってことは間違いない。かつ、復活第一作だから、“HIPHOP is BACK”が表現できるような、ど真ん中な感じでいってみようって。結果的にはワビサビの入ったトラックが多くなったね」
U「ライムスター用に作った人もいるだろうし、いままでのストックの中から選んだ人もいるだろうけど、結果的に採用されたのは、ライムスター用に作ったってトラックが多かったよね」
J「今回は使えなかったけどキープにさせてもらってるトラックもまだまだいっぱいあって。かつ、トラックに気合いを感じることがスゴく多かったし、実際にその後に会って話を聞くと『スゴく緊張しました』って話を聞いたりして。それは俺らにそういう感情を抱いてくれてるってことだからうれしかったね」
U「結果的に俺らが選んでるわけだから、どんどんライムスターっぽくなってくんだよね。もっと強制的に『このトラックで歌ってほしい!』って決め打ちされれば、また違ったのかもしれないけどね」

――そういう細かく口出しをする人はいなかったんですか?
D「JIN、だけだね」
J「『ここで”Hey!“を入れるんだ!』」とか」

――内部でしたか。DABO/TWIGY/ZEEBRAによる“ONCE AGAIN”のリミックスについても教えてください。
U「人選に関しては、当然だけど無限の可能性があって、実際考えてるときにはキリがなくなっちゃって、入れたいと思う人を全部入れてたら、何十時間の曲になるんだよ! って。でも、その中でも“レジェンド”を考えたらこの3人になったんだよね」
D「それぞれの“ONCE AGAIN”観があるよね。でも、DABOがヴァースで、『してくれ自覚 そうさパイセン しなびた自虐ならこっちゃ勘弁』って言ってるけど……あれ怒られてるのかな?(笑)」
U「ディスられてますよ、完全に! 言われたい放題」
D「先輩の自覚とか持たなきゃいけないのかなー」
J「っていう問いかけだよね、きっと」
D「んなの性に合わないよ(笑)」
U「ま、でもこの3人のリミックスも含めて、自分なりの“ONCE AGAIN”を書きたくなった人もいると思うから、みんなの“ONCE AGAIN”を聴いてみたいよね」 ――そういう細かく口出しをする人はいなかったんですか?
D「JIN、だけだね」
J「『ここで”Hey!“を入れるんだ!』」とか」

――20周年を迎え、次の展開やビジョンはもう見えてますか?
U「いつもはアルバム制作が終わったら、しばらくは何もイメージが浮かばなかったけど、今回はめずらしく次作へのアイディアが浮かんでる。それが次のアルバムを示唆するかどうかは別にしても、とりあえず作るべき曲のイメージはある。まあ……このアルバムの反響次第だけどね。これがビックリするぐらい不評だったら、まあ別の展開を考えざるを得ないからね!」
J「『まさかあんなに叩かれるとは思わなかった……』ってぐらい(笑)」
U「妹のパンティがそんな問題になってたなんて!って(笑)」
D「実際に長い活動休止期間があったけど、これからはしばらく居続けると思うよ。作品もコンスタントにリリースしたいと思ってるしね」
U「このアルバムでまだまだライムスターはやれそうだって感じたよね。どんなに新しい世代が出てきても、これができるのはライムスターしかいないと確信できたし、やってきたことは間違ってなかったなって」

――その意味では20年目にしての新たな自覚が生まれたと。
U「ヒップホップ/日本語ラップを選んで間違ってなかったね」
D「孤独であることに全然恐れもないし、シーンにお膳立てしてもらおうとも思ってない、ましてや『これはヒップホップじゃない』って言われたら、『上等だよ! じゃあ、何がヒップホップなんだよ!』って言い返すぐらいの覚悟はできている。ライムスターは孤独っちゃ孤独でヘンな立ち位置にいるグループかもしれないけど、それはそれでいいな、ってスッキリした気持ちになってるよ、このアルバムを作ったいまは」


<いったい誰が参加してるというの? : 「マニフェスト」参加クリエイター>

□BACHLOGIC
 M-01:午前零時 -Intro
 M-02:ONCE AGAIN
 M-11:ミスターミステイク

 RHYMESTER直々の指名を受け、再始動シングルを手掛けたBACHLOGICは、ヒップホップのアングラ/メジャーのみならず、近年においてはポップ・フィールドへのトラック提供も積極的に行う。フロアライクなクラブ・バンガーから思わず涙腺が緩むようなエモーショナル作品まで、作風豊かでありつつも、確実に出る「色」は見事。

□DJ WATARAI
  M-03:H.E.E.L.
  M-13:ラストヴァース
 99年に発表した「リスペクト」のリミックス盤「RESPECT改」に収録された“Brothers”以来の顔合わせとなるDJ WATARAIは本作で2曲を担当。アルバム・リード曲のような扇情的かつ緻密なトラックから、“H.E.E.L.”のような変則的なビートまでそつなくこなす、いつの時代においても喜びと感動を運んでくれるトラック・メイカー界の首領。

□EVISBEATS
  M-04:New Accident

 MCとしての才覚も持つEVISBEATSは西日本を代表する職人。サンプリングを主体としながらも極めて予測不可能なトラック・メイクは、時にマンネリを引き起こしてしまう日本語ラップの似通ったトラックに活を入れる。この楽曲はリリックがRHYMESTER印でありながらもトラックとの融合によって、素晴らしき世界観を打ち出すことに成功。

□DJ大自然
  M-05:渋谷漂流記

 4人組ヒップホップ・グループ:トリカブトのメンバーとして、母体作品のほとんど担っていた隠れ天才。ド直球のヒップホップ魂をベースに、その時々のにおいを忘れない研ぎ澄まされた嗅覚で、新たなものに再構築する技術はお手のもの。今作では奇をてらうことなく正攻法スタイルで勝負に挑み、RHYMESTERをさらなる高みへ上げる。

□DJ Mitsu The Beats
  M-06:Under The Moon
  M-10:ちょうどいい

 メロディアスで息を呑むほどの展開力を持ったRHYMESTER史上、もっとも幻想的な曲として語られそうな“Under The Moon”を手掛けるはDJ Mitsu The Beats。常に誰もが羨むアイディアの宝庫は、海外からも羨望のまなざしを送られるほど。一方の“ちょうどいい”はレイドバックしたトラック上をRHYMESTERと女性コーラスがふわふわと乗りこなす。

□Monkey Sequence. 19
  M-08:ライカライカ
 DJ JINのフックアップによって参加が決定した仙台在住、弱冠二十歳のMonkey sequence.19。彼の参戦情報が流出するやいなや、すでに巷の耳目を集めており、その話題性とともにこれからどう化けるかが注目される若手注目株。ビートを作り始めてからまだ間もない彼は、本作一RHYMESTER道理には適わないような新奇なトラックを提供。

□Maki The Magic
 M-12:Come On!!!!!!!!

 過去に“ビッグ・ウェンズデー”で共演、“Hey, DJ JIN”のリミックス(※キエるマキュウ名義)を担当するなど、参加メンツの中でも互いの思惑を一致させることに一番長けているであろうMaki The Magic。キング復活の咆哮を轟かせる任務に従事したトラックは、エモーショナルの裏に隠れたキングとしての威風堂々たるリリックをより鮮やかに描き出している。

□DJ JIN
 M-07:付和Ride On
 M-09:K.U.F.U.

 収録曲の大半を外部プロデューサーの起用で占めるなか、メンバーのDJ JINは2曲を担当。先行シングル併録の“付和Ride On”は、彼が得意とするフューチャリスティック路線に浅草サンバを重ね合わせた異色作で、ライヴでの爆発度は実証済み。またRHYMESTERらしいタイトルの“K.U.F.U.”は義侠心に訴えかけるファンキー・ブレイクビーツ。



RHYMESTER
「マニフェスト」
Ki/oon/NeOSITE DISCS
初回盤:3,200円 通常盤:3,059円
2月3日発売


RHYMESTER●ライムスター
宇多丸とMummy-Dの2MCとDJ JINからなるヒップホップ・グループ。93年にインディ・デビュー、01年にメジャーへ移籍。これまでに数多くのクラシックを生み、07年には日本武道館でワンマン・ライヴを敢行。以降、活動休止に入るが約2年半の期間を経て再始動シングル“ONCE AGAIN”を発表、今年4年ぶりとなるアルバムをリリースする。
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